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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1091号 判決

控訴人

藤田ミツ

右訴訟代理人弁護士

志水巌

被控訴人

被相続人ヒル・トクエ相続財産

右代表者相続財産管理人

花水征一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被相続人ヒル・トクエの相続財産につき相続権を有することを確認する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一丁裏末行の「大橋徳江」を「大橋德江」と、同二丁表二行目及び同一〇行目から一一行目にかけての各「ヂェイムス」をいずれも「ヂェムス」とそれぞれ改め、同二丁表八行目の末尾に続けて「また、同女の所有不動産はすべて日本にあり、同女のイングランド法上のドミサイルも日本にあった。」を加え、同丁裏五行目の「大橋くに恵」を「大橋file_5.jpgにえ」と、同三丁表六行目の「国内法」を「国内実質法」と、同九行目の「英国法上」を「イングランドの判例法上」とそれぞれ改め、同三丁表九行目の「外国法廷法理」の前に「、家族法とくに相続法の分野における準拠法の指定に関する」を加え、同三丁裏三行目の「英国」を「イングランド」と改める。

二  原判決四丁裏末行、同五丁表四行目及び六行目の各「日本法」を「日本の民法」と、同五丁表五行目の「イギリス」を「イングランド」とそれぞれ改める。

理由

一請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二また、被相続人ヒル・トクエには子がなかったこと、同女の死亡時には配偶者及び父母が生存していなかったことは、当事者間に争いがなく、この事実と、〈証拠〉によれば、請求原因3の事実を認めることができる。

三そこで、被相続人ヒル・トクエの相続(以下「本件相続」という。)の準拠法について検討する。

法例二五条によれば、本件相続は、被相続人ヒル・トクエの本国法、すなわち英国の法律によるべきところ、同国は地方により法律を異にする国であるから、法例二七条三項に従い、ヒル・トクエの属する地方であることに争いのないイングランドの法律によるべきである。しかしながら、イングランドの国際私法によれば、不動産の相続については不動産の所在地法が、不動産以外の財産の無遺言相続については被相続人のドミサイル地法がそれぞれ適用されるべきものと解されており、そして、本件においては、ヒル・トクエの所有不動産及び同女のイングランド法上のドミサイルがいずれも日本にあることは当事者間に争いがない(なお、本件相続が無遺言相続であることについても、争いがないと解される。)から、本件相続については、法例二九条により、「日本ノ法律」すなわち日本の民法が適用されるものと解するのが相当である。

ところで、右の点について、控訴人は、イングランドの判例法上、家族法とくに相続法の分野における準拠法の指定に関して確立された外国法廷法理(フォーリン・コート・ドクトリン)によれば、イングランドの国際私法が相続の準拠法として不動産の所在地法又は被相続人のドミサイル地法を指定する際における「法」とは、その外国の国内実質法ではなく、その外国の国際私法を指すものであり、従って、当該相続については、その外国の国際私法の指定する国の国内実質法が適用されることになるのであるから、本件相続につき、法例二九条によって、日本の国内実質法である日本の民法を適用するのは不当であると主張する。しかしながら、イングランドの国際私法が相続の準拠法として不動産の所在地法又は被相続人のドミサイル地法を指定する際における「法」とは、所論の外国法廷法理によっても、その外国の裁判官が当該相続事件を担当し審理したとすれば、同裁判官が準拠法として適用するであろう国の法の全体を指すものであり、その「法」の中には、その国の国内実質法である相続法ないし民法も当然に含まれていると解すべきである。従って、控訴人の右主張は採用することができない。

四そうすると、本件相続については日本の民法が適用されるというべきところ、同民法によれば、被相続人ヒル・トクエの叔母(実父の妹)であるにすぎない控訴人は、ヒル・トクエが前記のとおり日本に所有していた不動産についても、また、同女のその余の財産についても、何ら相続権を有しないことが明らかである。

五以上のとおりであって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はその理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥村長生 裁判官前島勝三 裁判官笹村將文)

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